『白衣』



「38度。風邪ですね・・・。」

静流に渡された体温計には、平熱をオーバーした数字が並んでいた。
今、蔵馬は白衣姿。
家で実験をしていて、たまたま白衣を着ていただけだった。
そこへ静流が入ってきたのだった。
様子がおかしいので熱を計ってみたらこの通り。

「昨日雨降ってたのに
 傘もささないで歩いて帰ってきたからですよ。
 電話してくれれば迎えに行きましたのに。」

体温計をしまいながら蔵馬は呆れたように言った。

「お医者さん、お説教は今度にしてくれる・・・頭痛いのよ・・・。」

「医者って・・・とにかく変な事言ってないで
 俺の部屋行って寝ててください。
 ここ片付けたら後で行きますから・・・。」

「歩くのしんどいのよ・・・・。部屋まで連れてって。」

「・・・・連れてくって・・・・?」

静流は蔵馬に寄りかかりながら言った。

「だから、歩くの嫌なんだってば。先生。」

こんな状態でも、薄く笑みを浮かべているのは静流らしい。
蔵馬は、まったく・・・と言いながらも
静流を抱き上げると階段を上り始めた。


「あ〜ぁ、風邪ひくなんて何年ぶりだろう・・・。」

「良いんじゃないですか?何とかは風邪ひかないって言いますし。」

少し悔しそうにつぶやいた静流に蔵馬は意地悪を言ってみた。

「ひどいねぇ。」

「いつものお返しですよ。」

それでも静流は  
熱のせいでだんだん呼吸が荒くなっていった。
ベットに寝かせると蔵馬はタオルを取りに行こうとしたが
弱々しい声が蔵馬を呼び止めた。

「蔵馬くん・・・。」

呼ばれて振り向くと、静流が小さく手招きをした。

「なんですか?」

蔵馬が訪ねると、静流は薄く目を開けて蔵馬の手を握った。

「病人部屋に残してくなんて反則でしょ・・・。
 ここに居てよ。あたしが眠るまででもいいから。」


仕方なく窓だけ開けると蔵馬は、ベットの横に座った。

そよ風が気持ち良いのだろう。
静流は蔵馬の手を握ったまま目を閉じて、
すぐに寝息をたて始めた。
眠ってしまっても手はしっかり繋がれたまま。
蔵馬が「早く治してくださいね。」と耳元でささやくと
カーテンが風で揺れていた。

 

 

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