黒竜の巫女

 

 

〜九章〜

 

「では、この部屋に外から結界を張るわ。」

 

糸姫の言葉に、

雪解は小さく頷いた。

竜の婚姻の正式な衣装を身につけた紫姫が、

隣で姫水に抱きつかれている。

 

「姫水。もう泣くのはおやめなさい。」

蒼竜に宥められてやっと紫姫から離れた姫水は、

それでも、涙を零し続けている。

 

昨日のうちに、

事態は総ての巫女に伝えられた。

この契りが成立する可能性が限りなく低いことも、

失敗したら、総てが滅びることも。

 

総てを承知した上で、

巫女らと四竜はその可能性に賭けることにしたのだ。

それしか、もう道はないのだから。

 

「紫姫。私は、貴女を信じているわ。どんな結果になっても後悔しない。」

竜玉を掲げた糸姫が微笑む。

「我らはこれから城に戻り、出来る限りの結界を張る。

そなたの力が本当に暴走を始めたら、役にもたたんだろうが、な。」

白竜の言葉に、他の竜王たちが頷く。

「最期の瞬間まで諦めないさ。執念深いのが竜だからな。」

「そうそう。死ぬ瞬間まで僕らは竜王だから。」

「行きなさい、息子たち。夜には結果がわかるでしょう。

夜になっても生きていたら、

奇跡が起きたということです。」

糸姫の言葉に、

竜王たちは自分たちの巫女を連れてそれぞれの城に戻る。

 

「行こう。」

「ええ。」

雪解と紫姫が扉の向こうに消えた後、

糸姫は竜玉から夫の移し身を呼び出した。

その移し身が核となって結界が張られるのだ。

これは、契りが終わるまで、この城を保つための結界。

竜の本性に戻った雪解は、

自分の力を押さえつけることもできなくなる。

その余波を防ぐための結界なのだ。

 

「最期になんて絶対させない。

私の最期は貴方の傍でって決めてるのだもの。」

糸姫の囁きに、移し身の夫が笑う。

 

長い夜が始まろうとしていた。

 

 

 

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