紅竜の巫女
〜三章〜
ばたんと扉が音を立てて閉まり、軽い足音が遠ざかっていくのを、残された八人の巫女たちはしんと静まり返った空気の中で聞いていた。
いつも明るい桜姫の、その不自然さに、数人の巫女がため息をついた。
「紫姫、どうか、桜姫を責めないでやって欲しい。彼女は彼女なりにそなたのことを祝福しているのだ」
虹糸が密やかに呟いた言葉に、紫姫は驚いたように目を見開いた。
勿論、紫姫は桜姫を責める気などない。
ただ、いつも元気で明るい桜姫が、あんなに辛そうだったのが、気にかかっていた。
「桜姫様があんなお顔をされるなんて」
姫水もまた気遣わしげにそう呟く。
そんな彼女の頬に、咲姫の手がそっと慰めるように触れた。
「桜姫と糸宝のことも、そろそろ話しておくべきかもしれませんね」
糸緒の言葉に、数人の巫女がはっと身じろぎをし、残りの巫女もまた、ただならぬ雰囲気を感じ取って互いに顔を見合わせた。
「次代が生まれるという今だからこそ、妾たちは想いをひとつにしなくてはならぬ。そのためには、桜姫の苦悩も皆が分かち合うべきであろうな」
咲姫の言葉に、虹糸が頷く。
そのやり取りに、巫女たちは皆姿勢を改めた。
紫姫の話と同じく、大切な話がなされようとしているのだ。
虹糸と糸緒、そして咲姫は事情を知っているようだ。
紫姫と姫水は事情を知らない。
他の巫女をみやると、白竜の一人目の巫女瑠糸もまた、事情を知っているようであった。
白竜の二人目の巫女姫妃と、緑竜の三人目の巫女伽糸は、不思議そうな顔をしているから何も知らないのだろう。
虹糸は、事情を知る者も知らない者も区別なく、ぐるりと巫女たちの顔を見回した。
「最年長として、最初からこの世界を知るものとして、私から話そう。桜姫の苦悩は、我らすべての苦悩だ。それを、理解って欲しい」
静かな言葉に、糸緒と咲姫が頷く。
紫姫も、静かに頷いた。
「そなたらは糸宝の存在を知っているだろうか?」
虹糸の問いに、巫女たちは皆頷いた。
糸宝は、桜姫と同じく紅竜に嫁した巫女姫である。
虹糸、糸緒に続いて三人目の巫女であった。
だが、彼女は、虹糸と糸緒以外の巫女の前に現れたことはない。
何故なら彼女は決して目覚める事がないからだ。
彼女は、息をしているというだけで、死んでいるも同然の存在であった。
「糸宝様は、紅竜様の城の一室で眠りについていると蒼竜様から伺いました」
姫水の言葉に、虹糸は小さくため息をついた。
眠りといえば聞こえがいいが、その眠りは永久に目覚めぬ眠りである。
「蒼竜様はお優しい方ゆえ、そのような言い方をされたのだろう」
「ふふ。特にこの姫水相手だからな」
虹糸の言葉に、咲姫が微かに笑う。
それは、とても優しい笑みで、姫水は暗に子供扱いされたことを咎めることなく、ただ、小さく肩をすくめて見せた。
「眠っている、と言えば確かに眠っているということになろうが、起きることがないという意味では、糸宝は死んでいるも同然の身なのだ」
静かに告げられた言葉に、巫女たちが息を飲む音が部屋に響いた。
巫女たちは皆糸宝の存在を多かれ少なかれ識ってはいたが、彼女が眠りに至った経緯を詳しく知る者は、虹糸と糸緒以外にはいなかった。
咲姫もまた、すべてを知っているわけではない。
彼女が知っているのは、糸宝が紅竜の城の一室に閉じ込められるようにして眠りについていることと、その部屋が、蒼竜の力によって氷漬けにされていることだけであった。
桜姫の苦悩は知っていたが、それに至る糸宝の行いは知らない。
それゆえに、巫女たちは口を挟むことなく、無言で虹糸に話の続きを促した。
「そもそも、我らが巫女として湖に入ったのは、竜王様たちが五竜として生れ落ちてから数千年経った後、緑竜様の力が暴走したからだ」
その、緑竜を鎮めるために最初に湖に捧げられた虹糸が、遠い昔を思い出すように目を細めた。
隣で糸緒もまた、静かに目を閉じる。
比較的年の若い巫女たちにとっては、それはずっとお話のように村の大人たちに語り継がれてきた伝説の一部でしかないが、虹糸や糸緒にとっては、それはまだまだ記憶に鮮明な、自らの体験である。
虹糸は、目を細めたまま、ふっと、息を吐き出した。
「私は、最初から緑竜様を鎮めるために喚ばれ、そのまま緑竜様に嫁した。そして百年後に、糸緒がやってきた」
虹糸の言葉に、糸緒が小さく頷いた。
虹糸と糸緒は、その点で巫女たちのうちの誰よりも深い絆で結ばれていた。
虹糸が巫女たちの長だとすれば、糸緒はそれを支える者であった。
「緑竜様の力は、私だけの力では鎮めきれなかった。それゆえに、糸緒もまた、選択の余地なく緑竜様に嫁したのだ。そして、その百年後にやってきたのが糸宝だった」
目を閉じれば、虹糸には昨日のことのように思い出せた。
純白の花嫁衣装を身に着けた糸宝を、糸緒と共に出迎えた日のことを。
糸宝は、艶やかな黒髪と、紫水晶のような淡い紫の目を持つ、儚げな麗人であった。
「彼女は、儚げで華奢で、でも、その心はとても毅い巫女だった。彼女が湖に入った年、なんとか力を安定させた緑竜様に代わる様に、紅竜様の力が暴走した」
淡々と告げられた言葉に、巫女たちは目を見開いた。
彼女らは、紅竜の力を知っている。
紅竜は炎脈を司る。
黒竜のような絶対的な破壊の力ではないが、確かに他の竜王よりも負の方向に傾いた性質の力を持っている。
その力が暴走すれば、世界はただではすまない。
巫女たちのその言葉が聞こえたかのように虹糸は大きく頷いて見せた。
「知っての通り、紅竜様は強い炎の力を持っていらっしゃる。その力が暴走し、あの時は手がつけられない状態だった。今ならば黒竜様の力で鎮めることが可能だったかもしれないが、あの頃は黒竜様もご自分の力を制御するのが精一杯で、とても紅竜様の暴走を止められるような状態ではなかったのだ」
虹糸の言葉に、紫姫が目を伏せた。
兄弟の危機に、何も出来なかった黒竜の哀しみが、思いやられたからだ。
「紫姫ならわかるだろうが、竜王の暴走を止める方法はひとつしかない」
「……その身にその力を受け入れることですね」
紫姫の言葉に、虹糸は頷いた。
つまり、竜王と契り、その際に暴走した力を一端巫女の体内に送り、鎮めてからまた竜王の体内に戻すという方法だ。
力の交歓自体はどの巫女もやっていることだ。
だが、その力が暴走している状態だとすれば、また話は違ってくる。
「私のときは、私の力と緑竜様の力が拮抗していたためにそれほど苦痛はなかった。痛覚を麻痺させる薬を僅かに服用すれば、忘れられるほどの苦痛だったのだ。糸緒も同じだろう」
虹糸の言葉に、糸緒が小さく頷いた。
虹糸と糸緒も暴走した状態の緑竜と契った巫女であったが、それぞれ力が強く、また限りなく人間の世界に寄り添う緑の力を持つ緑竜が相手だっただけに、それほどの苦痛を感じることなく、力の交歓を行うことが出来た。
だが、紅竜のときは、そう上手くはいかなかったのだ。
「糸宝は、巫女としての力はそう強い娘ではなかった。だから、最初からわかっていたのだ。彼女に、暴走した紅竜様の力を受け止めることはできるはずもなかった。だが、どうにかしなければ世界が滅ぶ。それで、神竜様も含めて皆で話し合い、結果、糸宝が犠牲になってしまったのだ」
悲痛な虹糸の声に、糸緒がそっと彼女の手を取る。
その時の悲哀は、虹糸と糸緒しか知らない。
声を詰まらせた虹糸の代わりに、糸緒が口を開いた。
「糸宝は、毅い女性でした。そう、状況としては紫姫、貴女のときと似ているかもしれませんね。ただ、それは、貴女のときのように賭けになるようなものではなかった。可能性を賭けるまでもなく、可能性はゼロだったのです」
哀しげな声が、僅かに震える。
「糸宝は、紅竜様と力の交歓をすることは出来なかった。その代わりに、暴走した力を、自らの体内に封じ込めることにしたのです」
ひっ、と小さな声が上がった。
竜王の巫女であるが故に、皆にその意味がわかる。
巫女であるとはいえ、単なる人間が、竜王の力を体内にとどめて置けるわけがない。
循環するからこそ、交歓は成立するのだ。
ただ力を注がれたのであれば、巫女の人間としての身体は崩壊してしまう。
巫女たちは一様にその結果を想定し、眉を寄せた。
その中で、咲姫が一人、納得したように頷く。
彼女には、その説明で、すべてがわかったようであった。
「糸宝は、恐らく一目紅竜様を見たときから、彼を愛していたのでしょう。紅竜様のためなら命も惜しくないと、私たちに毅然とした態度で語りました。私たちには、もうどうすることも出来なかった」
自らの無力を悔やむように、糸緒が囁く。
虹糸もまた、辛そうに目を伏せた。
「そして、もっと不幸なことに、紅竜様もまた、一目糸宝を見たときから、彼女を愛してしまわれていたのです。紅竜様は苦しみ、それでもその力の暴走を抑えるには糸宝を犠牲にするしかありませんでした。でも、紅竜様には自らの力で彼女が焼き尽くされることなど許せることではなかったのです」
「それで、蒼竜様に頼ったのだな」
静かな咲姫の言葉に糸緒は頷き、姫水は、突然言及された夫の名に、はっと顔を上げた。
皆が、咲姫を見つめる。
それに、咲姫はゆっくりと頷いて見せた。
「紅竜様は、糸宝を失いたくなかった。それゆえに、唯一時に干渉する力を持つ蒼竜様に、ある頼みをされたのです」
「時に干渉する力…?」
「そうだ。蒼竜様は、水脈を司る竜王。水は、唯一氷という形態になることでその時を止める。他のすべての力が、留まることなく流れるのに対し、蒼竜様の力だけは、凍りつき、留めることの出来る力なのだ」
咲姫の言葉に、皆は納得し、頷く。
蒼竜は癒しの力を持つ竜である。
だが、その癒しという結果をもたらすためには破壊の力を揮うときもあったし、時そのものを止めてしまうこともあった。
唯一あらゆる形にその身を変える水の力は、蒼竜だけが持っている力なのだ。
紅竜は、自らと正反対の性質を持つ蒼竜に、糸宝の時を止めるように頼んだ。
炎はけっして留まることのない力だ。
その力が糸宝の中に解放されてしまえば、その力は糸宝の存在を呑み尽くすまで留まることはない。
紅竜はそれを嘆き、それゆえに、糸宝の身体を、その中に注がれた自らの力ごと止めてしまうように頼んだのだ。
「紅竜様は、城の一室を糸宝のために用意し、その扉の向こうに蒼竜様が立たれました。紅竜様は最初で最後の契りを糸宝と交わし、蒼竜様は糸宝の身体に紅竜様の力が流れ込んだ瞬間に彼女の身体ごと部屋を氷漬けにしたのです」
その部屋は、未だ氷に包まれている。
永遠に解けることのない蒼竜の封印は、勿論今も生きていた。
「恐らく、そのおかげで糸宝は苦痛を感じなかったでしょう。苦痛を感じる前に彼女の時は止まったからです。けれど、彼女が目覚めることはもう二度とない。時を戻した瞬間に、彼女はその身に封じた力によって焼き尽くされてしまうのです」
静かな静かな糸緒の言葉に、巫女たちの深い嘆息の喘ぎが混じる。
一度もこの場に会したことのない紅竜の巫女、糸宝は、それでも確かに、巫女たちの誰よりも巫女であったのだ。
「紅竜様は、その時に、糸宝を唯一の紅竜の巫女とお定めになりました。彼女以外は決して愛さぬと。けれども、糸宝は生きているというだけで決して目覚めることはない。紅竜様に向かって微笑むことも、紅竜様を慰めることも、紅竜様と喧嘩をすることもない」
糸緒の言葉に、紫姫がはっと顔を上げる。
今、紅竜に微笑み、彼を慰め、彼と喧嘩をしているのは、桜姫だ。
桜姫は、存在しないはずの、紅竜の二人目の巫女。
その想いが聞こえたかのように、虹糸が哀しげに微笑んだ。
「紅竜様はその誓いを守り、それ以降巫女を娶ることはなかった。けれども、暴走した力を糸宝の身体に封じ込めるということは、つまりその分だけ紅竜様の力が削がれるということでもある。紅竜様は常に無理をして、その身の力を制御されていた。本当は、巫女がすぐにでも必要であったし、白竜様を始めとした竜王様たちもそれを求めた。だが、紅竜様は頑としてその言葉を聞き入れず、それ以降数百年巫女を娶ることはなかったのだ」
糸宝は、三人目の巫女である。
そして桜姫は七人目の巫女だ。
つまり、その間、実に四百年、紅竜は一人で自らの不完全な力を制御していたことになる。
竜は情が深い。
巫女たちはそれを多かれ少なかれ実感している。
憎んだ者は跡形もなく消し去り、愛した者は一生涯離さない。
それが竜の業であり、本性である。
紅竜は確かに、我が身を犠牲にするほどに糸宝を愛しているのだ。
「桜姫は、皆も知ってのとおり、力の強い巫女だ。彼女が湖に入ったとき、紅竜様以外は…否、黒竜様もだな、それ以外は皆力は拮抗しており、誰が桜姫を娶っても構わない状況だった。だが、桜姫は一目見て紅竜の力が不安定であることを察し、彼に嫁すと宣言したのだ」
当然、紅竜はそれを跳ね除けた。
必要以上にきつい口調で桜姫を退けたのだ。
だが、桜姫は気の強い少女だった。
紅竜のその主張を我侭だと言い切り、世界のために、私を娶るべきだと告げたのだ。
「桜姫は言った。糸宝だけを愛しているのは紅竜様の勝手だが、そのせいで村を、人間の世界を危険にさらすのは許せないと。竜王には、竜王としての役目があると」
「そう、それで、桜姫は、決して自らが愛されることがないことを承知で紅竜様に嫁したのです。でも、それがどんなにつらい決断だったのか、わたくしたちは良く知っています。あの子は、明るく振舞っていますが女としての情の深い子です。湖に入る前は村の子供たちを集めて面倒を見ていたくらいに子供好きな子だったんです。愛し愛されて、その相手の子を産むことを何より幸せだと思うようなそんな子なんです」
虹糸と糸緒の言葉に巫女たちは頷いた。
桜姫は気が強くて、口数も多く、時には激しい感情をむき出しにすることもあるが、実は巫女たちの中で一番優しい娘なのだ。
年下の巫女に対しても面倒見がよく、なんだかんだと文句を言いつつも、紅竜のサポートをおろそかにしたことは一度もない。
彼女の口が悪いのは、生来の性格による一種の照れ隠しだと、巫女だけでなく竜王たちも識っていた。
そう。
皆が識っているのだ。
桜姫が、本当は深く深く紅竜を愛していることを。
そして同時に、紅竜も、糸宝とは違った次元で深く桜姫を愛していることを。
けれども、彼らは互いにそのことを知らない。
否、気付かないようにしているのだ。
桜姫は、紅竜の糸宝に対する愛ゆえに。
紅竜は、桜姫に対する罪の意識ゆえに。
糸宝の存在は、存在自体が負担である。
強大な力を封じ込めた身体が消滅することなく存在しているということは、自然の摂理を無理矢理曲げている状態なのだ。
蒼竜の力によって凍り付き、封じられてはいても、その封じを保つためには一定レベルの力が必要となる。
紅竜は糸宝の身体を留めるために数百年その力を揮い続け、そして桜姫を迎えた後には、桜姫もまたその力で糸宝という存在をこの世界にとどめているのだ。
それは、本来ならば必要のない存在であるが故に、二人の身体には負担としてのしかかっている。
どんなに心情的には糸宝を留めてやりたくても、それを成すための力は負担という名を持つものでしかないのは事実だ。
糸宝の封じを解き、彼女が消滅すれば、紅竜も桜姫ももっと楽になる。
けれども、紅竜は糸宝の封じを解くつもりなどまったくなかったし、桜姫もまた、その条件を受け入れて紅竜に嫁したが故に、そして同じ巫女である糸宝を想うが故に、その負担をずっと受け入れているのであった。
紅竜は、その桜姫の想いを知るがゆえに、彼女に罪悪感を持っている。
彼女の本質を、紅竜は誰よりも良く知っており、それゆえに、その本質を曲げさせている己を決して許さないのであった。
虹糸も糸緒も、他の竜王たちも皆それぞれ彼らを案じながらも、何も言えないでいる。
竜王とその巫女の関係は、同じ竜王や巫女であっても口を挟むことの出来ない個人的な契約だからだ。
だからこそ、虹糸も糸緒も桜姫のぼやきを止めない。
少しでもそれで桜姫の想いが晴れるのならば、と黙認しているのだ。
どんなに紅竜を罵っていても、実際、桜姫は紅竜を誰よりも愛している。
糸宝の存在がその証であった。
そうでなければ誰が好き好んで恋敵の命を守るためにその力を限界まで使うだろうか?
もう二度と目覚めぬ相手をただこの世に留めるためだけに、紅竜と桜姫はその力を揮っているのだ。
「桜姫は、孤独なのだ。我らは皆、支えあう巫女がいる。私には糸緒と伽糸が、咲姫には姫水が、瑠糸には姫妃が。だが糸宝は、桜姫を支えることなどできない。彼女はただ眠っているだけだ。紫姫、多分桜姫はそなたに自分を見ていた。一人の竜王と一人の巫女というその関係性を見ていたのだろう。だが、そなたは確かに黒竜様に愛されている。そして、その子を宿した。どうか、わかってやって欲しい。桜姫はどうしようもなくそなたが羨ましく、そしてそう思う自分を嫌悪しているのだ」
虹糸の言葉に、紫姫は潤んだ瞳で頷いた。
胸が締め付けられる。
女として、桜姫の気持ちは痛いほどにわかった。
優しい彼女は、紫姫を羨んでしまう己を責めている。
苦しげな瞳はそのあらわれだ。
彼女は自分が紅竜に愛されていないと思っている。
それゆえに、黒竜に愛され、その子を宿した紫姫が羨ましくてならないのだ。
せめてどちらか。
紅竜に愛されているか、もしくは愛されずとも紅竜の子がいれば、きっと桜姫の想いも違っただろう。
だが実際には彼女にはそのどちらも与えられず、共に支えあう巫女の存在もない。
彼女は紅竜の広大な城で、ただ一人きり気丈に立ち、その力で紅竜と世界と、糸宝という存在を支えているのだ。
巫女たちは彼女を想い、深く哀しい吐息をつく。
ぽっかりと空いた空席が、その部屋の空気をより哀しく静かに見せていた。
二章 四章
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