蒼竜の巫女

〜五章〜

力が欲しい。

せめて、もう少しだけ。

思いつめた姫水は、
独り、黒竜の城の書斎にいた。

紫姫に許可を取って訪れたここには、
黒竜の集めた古今東西の書物が天井まで並んでいる。

ここなら、何か、自分の力を増す方法がわかるかもしれない。
五竜の世界には大抵のものがある。
だから、もし、何かを飲んだり使ったりすることで力が増すのなら、
それを試してみようと姫水は思った。

黙々と本を捲り続けて、
書斎の四分の一ほど制覇した頃だろうか。

姫水は一冊の古びた書物を棚の奥から引っ張り出した。

それは、竜についての古い伝承が多く書かれた本。
くだらない戯言も、隠し切れない真実も、
ごちゃ混ぜに書かれているヒトの手による書物。

その中に、『竜の鱗』についての記述があった。

曰く、『竜の鱗を剥がし、身につければ、その者には強い力が宿る』と。

竜の鱗。

契りの時は本性に近くなる五竜。
鱗など簡単に取れるはずだ。
それでなくても、竜の鱗はヒトの髪のように、
しばしば抜け替わるのだ。

姫水はその本を丁寧にしまうと、
決意を胸に秘め、黒竜の城を出た。



その夜。
紫姫を伴って書斎を訪れた黒竜 雪解は、
棚にあった一冊の本を手に取った。

それは、昼間、姫水が読んでいたもの。
その本から姫水の気を感じ取って、
雪解は僅かに眉根を寄せた。

「紫姫。姫水は今日何をしに来たのだ?」
「ああ、なにか書斎で調べものをしたいって。
私は昼間はちょっと気分が悪かったものだから、
独りで調べられるように鍵を渡したのだけれど?」

ふわりと首を傾げた紫姫の、
その気分が悪かったという言葉に気を取られつつも、
雪解は無言で手の中の本を見つめた。

「何を、調べていたんだろうな?」
「・・・え?どうして?」
「いや、ちょっと気になるんだ。
嫌な予感がする。
今夜は・・・、何かが起こるかもしれない。」
「雪解・・・。」

こういう時の彼の勘は外れることがない。

憂いに満ちた表情の夫を見つめ、
紫姫は姫水を思って心配げに目を伏せた。


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