蒼竜の巫女

〜九章〜

もやもやした気持ちを抱えたまま、
姫水は部屋に閉じこもっていた。

流藍に愛されていたのは嬉しい。
だが、どうしても咲姫のことが気にかかる。

けれど、それは、咲姫は、もう愛するヒトに会えないのだと、
そんな彼女の傍で自分だけ幸せになっていいのかと、
そんな同情みたいな気持ちではなくて。

もっともっと醜い気持ちのせいなのだ。

流藍は優しい。

たった一人を想い続けている咲姫を、
ずっと何百年も見守ってきたのだ。

その気持ちが、いつか本当に愛しさに変わらないと誰が言えるだろう?

そう、これはただの醜い嫉妬なのだ。

幾ら二人の関係が同志のようなものなのだと説明されても、
彼らが共にこの城で過ごしてきた時間は、
姫水のそれよりずっと永いのだ。

例え、咲姫がその部屋から滅多に出ないとはいえ、
この城の主である流藍にとって、そんなことは問題ではない。

その気になれば、この城に落ちる髪の毛一筋だって、
彼には感じ取れるのだ。

こんな想い、抱きたくなんかない。
今まで、心の奥底に仕舞っていた醜い気持ちが、
色々な事実を知ったことで溢れ出す。

無知は、多分罪なのだ。

この湖の底で暮らしてきた永い永い時の中で、
姫水は一度も知識を得ようとはしなかった。

疑問に思うことは沢山あったけれど、
それでも、この世界自体が、彼女にとって、
未知の世界だったから。

知らないことは知らなくていいのだと、
勝手にそう思い込んで何も行動しなかったのだ。

子供扱いされても仕方がない。

自分は、十五歳の子供のまま、成長してなどいないのだから。

情けない。
可愛がられて、愛されて、それでも、子供扱いされることが不満で。
恋心だけいつのまにか育って、
巫女としての役目も果たせないのに、
ただ、自分のことだけ考えて咲姫に嫉妬して。

こんなに情けないことがあるだろうか。

そして、今だって、こんな風に部屋に閉じこもって、
逃げてばかりいる。

悔しい。

巫女として、女としてのプライドが、
自分自身を叱咤する。

臆病者。

流藍からどれだけ言葉をもらっても、
自分への不審がそれを拒む。

自分の弱さが許せなくて、
姫水はきつく唇を噛み締めた。


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